パーキンソン病と似通った症状を持つためパーキンソン症候群またはパーキンソン病類縁疾患またはパーキンソニズムと呼ぶ病気があります。パーキンソン病と間違われやすいため鑑別が大切になります。
1)大脳皮質基底核症候群 Corticobasal degeneration(CBD)
異常リン酸化タウが蓄積する病気です。
・主に中年期以降に発症し緩徐に進行する。
・大脳皮質徴候として手足の運動失行、皮質性感覚障害、把握反応、他人の手徴候
・錐体外路徴候として無動、筋強剛、ジストニア、ミオクローヌスなど
・全般性認知機能障害、行動障害、構成失行、失語、半側空間無視など
・神経症状に顕著な左右差が見られる。
2)進行性核上性麻痺 Progressive supranuclea palsy(PSP)
異常リン酸化タウが蓄積する病気です。
・主に中年期以降に発症し比較的早めに進行する。
・初発症状はパーキンソン病に似ており、すくみ足、姿勢保持障害、安静時振戦は稀
・歩行時易転倒性、発病初期からよく転ぶ、不安定姿勢
・脳幹症状として、初期から垂直性核上性眼球運動障害、眼球の随意的上下方向運動の障害、パリノー徴候、進行すると上方視も下方視もできなくなる、構音障害、嚥下障害、徐々に歩行不能、立位保持不能 ⇒寝たきり
・前頭葉徴候としての認知障害、想起障害と緩慢思考を特徴とする。
・治療:初期には抗パ剤が有効な場合がある。少量の抗コリン剤、三環系抗うつ薬アミトリプチリン、コハク酸タンドスピロン
・予後:ADL低下進行は早く、2~3年で車椅子、4~5年で寝たきり、平均で5~9年
3)多系統萎縮症 Multiple system atrophy(MSA)
不溶化したαシヌクレインの蓄積する病気です。
・中年期以降に発症する。
・パーキンソン病に似た症状を呈するタイプを線条体黒質変性症MSA-P
・病初期から小脳性運動失調を呈するタイプオリーブ橋小脳萎縮症MSA-C
・起立性低血圧などの自律神経障害の目立つタイプをシャイドレーガー
・日本で多いのはMSA-Cのタイプ、初期には皮質性小脳萎縮症との区別がつきにくい
・MSA-Pはパーキンソン病に比して進行が早く、抗パ剤が効きにくい。安静時振戦は少ない。
・MSAに注意すべきは睡眠時の喘鳴、無呼吸などの呼吸障害 ⇒気管切開の必要な場合もある
・診断:神経学的所見とMRI画像に特徴的な鉄沈着による被殻外側部のT2高信号、被殻後部の低信号化、比較的早期から橋中部に十字状の高信号(十字サイン)
・治療:パーキンソン症状のある場合は初期は抗パ剤がある程度有効。自律神経症状には対症療法。呼吸障害にはCPAP療法。
・予後:5年で車椅子、8年で寝たきり、全経過9年
※ 上記1)2)3)の疾患についての家族への説明
歩きづらい、動作が鈍くなった、睡眠が悪いことを主訴に明神館クリニックを受診されました。
症状からはドーパミンホルモンの減るパーキンソン病に見えます。実際ダットスキャン検査で線条体におけるドーパミン量の明らかな低下が確認されました。問題はパーキンソン病とパーキンソン病類縁疾患との鑑別です。パーキンソン病は有効治療薬があります。一方、パーキンソン病類縁疾患には有効な治療薬はありません。なおかつ、パーキンソン病に比して病気の進行は早く予後もよくありません。両者は似て非なる病気です。鑑別するために、最初から抗パーキンソン病薬による積極的治療を行い、治療薬への反応を見る必要があります。したがって本人へは比較的予後の良いパーキンソン病としての治療説明を行います。抗パーキンソン病薬に対する治療反応が悪く進行する場合は、原則、ご家族だけへの説明となります。類縁疾患の場合には本人への告知は積極的にしておりません。気持ちを落とさないよう心のケアをしながらの治療が大切です。
4)脳血管性パーキンソンイズム
・小梗塞が多発し運動機能が障害される。パーキンソン病とよく似た症状を呈することがある。
・治療:脳血管障害の治療を行う。
5)薬剤性パーキンソン症候群
・抗精神病薬で起こりやすい。制吐剤や抗うつ剤でも起こることがある。
・治療:薬の減量と中止
6)正常圧水頭症 i-NPH
歩行障害、認知機能障害、尿失禁など、時にパーキンソン病と間違われる。