最近、物忘れが多いことを気にしているAさん。家族はもちろん、会社の同僚も気がつきません。このような、本人のみが物忘れを気にする状態を、主観的記憶障害SCIと言います。SCIは、気にしながらも、多くの人は放置しています。しかし、軽度認知障害MCIの健忘型の場合もあります。
主観的記憶障害SCIと、軽度認知障害MCIを、まとめてかくれ認知症(認知前症)と表現する場合もあります。
厚生労働省は、65歳以上になると、4人に1人は隠れ認知症MCIがいると警告しています。MCIは、軽度認知障害と呼ばれ、日常生活動作は正常なのですが、本人、家族共に、なんとなくおかしいと、記憶障害を訴えます。学会の認知症分類にないため、軽度認知障害MCIは、隠れ認知症と言われています。
認知症発症の数年前から始まっている、この軽度認知障害MCIを早期に発見し、適切な予防対策を取れば、認知症の発症を止めたり、遅らせたり、元に戻すことができます。
隠れ認知症と呼ばれている主観的記憶障害や、軽度認知障害は、認知症と診断される前の段階です。この段階で、適切な対応をすれば、認知症に進むことなく、正常生活を送ることができます。認知症発症予防治療は、なんと言っても生活習慣の改善です。詳しく説明します。
睡眠と認知症の関係が注目されています。アルツハイマー型認知症の原因と言われているアミロイド斑や、タウタンパク異常凝集などは、睡眠中に脳から排泄されると言われています。
メラトニンホルモン、成長ホルモンは、夜1回だけ分泌されます。夜10時から、翌朝3時までを、黄金睡眠、ゴールデンタイムと言います。この時間に眠らないと、脳の疲労は回復せず、ゴミの排出も十分できません。
睡眠と記憶の深い関係については、疑う余地はありません。多くの人が、慢性睡眠不足が続くと、物忘れが目立つことを経験するからです。目から、耳から、指から入った情報は、一次記憶中枢である海馬に蓄えられます。容積の小さい海馬は、一杯になった情報を、睡眠中に、大脳に転送します。大脳は、転送されてきた情報を整理整頓し、固定記憶にします。ここで初めて、記憶として保存されます。記憶と睡眠の関係は、とても大切です。
脳を構成しているのは、神経細胞とグリア細胞です。神経細胞の周りは、びっしりとグリア細胞で埋められています。グリア細胞は、別名マクロファージとも呼ばれ、細菌やウイルスから神経細胞を守ったり、神経活動の代謝産物(ゴミ)を外へ運び出す掃除屋の役目をしています。認知症は、このグリア細胞が慢性炎症や、免疫低下で神経細胞を守れなくなった状態という考えがあります。
睡眠と学習について、分りやすく図にしてみました。
こんな小さな海馬なのに、昼間の大量の情報にさらされ、毎日疲れています。早く寝てあげて、情報を大脳に転送し、ゆっくり休む時間をあげて下さい。でないと、海馬は慢性疲労となって、認知症発症の引き金を引くことになります。
人の睡眠は、ノンレム睡眠とレム睡眠が、約90分周期で繰り返します。レム睡眠行動障害とは、レム睡眠中に起こる夢見体験に一致して、睡眠中に異常行動を起こすことです。
症状は、大声で寝言を言ったり、腕を上げて何かを探すしぐさをしたり、殴る、蹴るなどの激しい動作が見られます。症状が強いと、起き上がって歩き回る、窓から飛び出す、ベッドパートナーに怪我をさせることがあります。これらの症状を呈するレム睡眠行動障害は、認知症発症の危険リスクと言われています。治療により軽快します。
イビキは無害と思われていますが、睡眠を浅くし、熟眠感不足の原因となります。他者への迷惑もあります。無呼吸は、睡眠障害の問題だけでなく、睡眠中の血中酸素飽和度が低下する低酸素状態は、認知症の危険因子です。また、脳機能に限らず、肝臓、腎臓、心臓に悪影響を及ぼします。在宅での簡易検査で、あなたのイビキ無呼吸の程度が分かります。マウスピースでの対処、CPAP治療などがあります。
マウスピース
CPAPシーパップ
姿勢のための筋肉、運動のための筋肉、と考えられています。ところが、筋肉には、体温保持作用、特に内臓保温の役目、さらに、最近の研究で、筋肉から100種類を越える生理活性物質が分泌され、ミオカインと呼ばれ、抗炎症作用、脂肪分解促進作用、特に、神経細胞保護作用のあることがわかってきました。筋肉は、認知症を予防する助っ人です。
お腹、骨盤の筋肉は、全て大腿骨に終わります。
したがって、歩くとお腹の筋肉、骨盤の筋肉が鍛えられます。
筋肉は、免疫の中枢である内臓の保温作用により、免疫機能を高めます。
最近の研究で、骨ホルモン、オステオカルシンと血糖値との密接な関係が明らかになりました。認知症とインスリン抵抗性との関係が示唆されており、歩かない人は、骨ホルモンの量が少なく、血糖値とインスリン抵抗性が高い傾向にあることがわかりました。おそらく、タンパク質の糖化という現象ではないかと考えられています。
骨ホルモンを出すためには、どうしたらよいか。それは、歩くことです。かかとから着地するウォーキングは、骨を刺激し、ホルモンの分泌を促します。簡便な方法として、かかと落としが推奨されています。
最近の研究で、骨ホルモン、オステオカルシンと血糖値との密接な関係が明らかになりました。認知症とインスリン抵抗性との関係が示唆されており、歩かない人は、骨ホルモンの量が少なく、血糖値とインスリン抵抗性が高い傾向にあることがわかりました。おそらく、タンパク質の糖化という現象ではないかと考えられています。
骨ホルモンを出すためには、どうしたらよいか。それは、歩くことです。かかとから着地するウォーキングは、骨を刺激し、ホルモンの分泌を促します。簡便な方法として、かかと落としが推奨されています
生活日誌:今までの自分から卒業して、新しい自分に挑戦して下さい。
注:レミニール、アリセプト、リバスチグミンは、同種類製剤のため、重複処方はできません。実際には、少量を組み合わせると、有効なことがあります。大きな問題は、現在発売されている4種類の薬が有効なのは、処方して1~2年しかないという論文が発表されていることです。
認知症には、いろいろなタイプがありますが、アルツハイマー病などの神経変性を伴う認知症は、発病の20年前には、脳の神経細胞の変化が始まっていると言われます。残念ながら、病気が進んでしまってからでは、決定的な治療法はありません。しかし、認知症の症状が現れる10年くらい前から、「物忘れが多くなったかな」という軽度認知障害MCIの期間が数年あります。この段階なら、認知症の進行を遅らせることができるかもしれないという研究成果が出ています。
脳の血流循環を良くするお薬
血液をサラサラと流れやすくする抗血小板焼くとしての低用量アスピリン(バイアスピリン、バファリンなど)、クロピトグレル(プラビックス)、シロスタゾール(プレタール)などがあります。
抗酸化ホルモン
代表はメラトニンです。副作用が少なく、安心して内服できます。睡眠改善剤として使用される量よりは、数倍多い量が試みられています。
抗てんかん薬
てんかんの治療薬であるバルプロ酸、レベチラセタム、トピラマートを少量使用することで、認知症の発症を遅らせるという臨床試験が、現在続けられています。
注1:製薬メーカーは、認知症のお薬の開発に手こずっています。今までの成功率は、わずか3.1%と言われています。世界の注目を集めていたアルツハイマー型認知症の抗アミロイドβ抗体であるソラネズマブは、米国イーライリリー社が治験に失敗し、開発を断念しています。
注2:認知症を促進するとする薬剤として、抗コリン作用を持つ抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬、そして、一部の抗てんかん薬があります。
記憶の原理は、記憶の第一次中枢海馬(短期記憶)と、記憶の第二次中枢前頭葉(長期記憶)の連係プレーによって行われます。日中、目、耳、指から入ってきた情報は、海馬に蓄積されます。この海馬に蓄積された情報は、夜間睡眠中に前頭葉に転送され、長期記憶となります。軽度認知障害MCIの人や慢性的睡眠不足の人は、情報の送り先前頭葉が疲弊しているため、送り先がなくなった海馬は、興奮状態になると考えられています。この海馬の興奮を鎮め、疲弊した前頭葉を元気にする薬剤として、抗てんかん薬が注目されています。
私は、40数年来、ナイト治療として、夜1回だけ処方してきた少量のデパケンとアミトリプチリンは、この原理にかなった薬剤と考えています。
【参考文献】